スマートユビキタスフォーラム





ビジネスモバイル最前線(6)
PHS通信網を利用し、
生鮮食品のトレーサビリティを低コストで実現

[2007/04/04]

CSC村田栄一郎社長
CSC 村田栄一郎社長
 生鮮食品のトレーサビリティを低コストで実用化したことが評価されて、今年3月、大日本印刷の「トレイルキャッチ」という物流履歴管理サービスが「2006年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経産業新聞賞」を受賞した。トレイルキャッチとは、PHS通信モジュールと温度センサ、位置センサを搭載した発信機を荷物の中に入れておくと定期的に温度や位置情報がサーバーに送られ、荷物の位置と温度情報を随時確認できるというサービスだ。RFIDなどを用いて、同様の物流トレーサビリティの実証実験が行われてきたが、通信インフラの整備やシステムの運用・管理などに多額のコストと手間がかかることが課題とされていた。トレイルキャッチは、輸送中の物流履歴情報の取得に既存のPHS通信網を利用することで、この問題を解決し、実用化までこぎつけた。
 トレイルキャッチの実用化に大きな貢献をしているのが、PHSのパケット通信網を活用して、この事業の通信インフラとなるデータ通信パッケージサービスを提供しているベンチャー企業、CSCの存在だ。CSCは、松下通信工業の役員だった村田栄一郎氏が2005年に起業したマシン・コミュニケーション・サービスに特化した通信事業会社である。

 トレイルキャッチでは、PHS発信機を荷物に入れて発送することで、荷物の位置情報、温度管理の状態が既存のPHS通信網を通じてサーバーに蓄積される。これによって、荷物がどんなルートを通って目的地に届いたか、また、輸送中の温度管理が適切になされているかをウェブ上からいつでも確認することが可能になった。予め設定した温度を超えた場合はセンサが検知し、本体の警告ランプが点灯するとともに、異常をユーザや輸送業者にメールで通知する。ドアの開け閉めなどで起こる温度変化もきめ細かく検知できるため、冷凍、冷蔵車で生鮮食品などを運搬する上で、有効な物流管理サービスとして注目を集めているのだ。
 このサービスのコア・モジュールを提供しているCSC(本社:東京 村田栄一郎社長)は、独自に通信インフラを構築するのではなく、既存のデータ通信向けPHS回線網をウィルコムから借り受けることでこのサービスを実現した。
 PHSの基地局は、狭いエリア(数10m〜数100m毎)をカバーするマイクロセル方式という通信網を採用していて、全国で16万局、人口カバー率も99%に達している。このインフラを利用すれば、新たな投資を行うことなく、しかも全国一律のサービスを提供することが可能になる。

マシン・コミュニケーション・サービスにウィルコムの回線網を利用
 CSCのように、独自の通信サービスを提供している通信事業者は、日本では数少ない。その理由は、通信事業者が回線網の開放に消極的なためだ。ウィルコムは、通信モジュール(W-SIM)をシム化して、外部事業者に提供するなど、自社の通信機能、通信網自体を外販する水平連携型のビジネスモデルを指向する数少ない通信キャリアである。「ウィルコムがPHSの回線網を開放してくれたことで、マシン・コミュニケーションに特化した事業構造の通信ベンチャーを起業することができた」とCSCの村田社長は語る。
 CSCは、このトレイルキャッチだけでなく、他にもPHS回線網を活用した、さまざまなビジネス向けデータ通信サービス事業を構想している。ただし、共通するのは、いずれも、トレイルキャッチのように発信機とサーバーを繋ぐようなM to M(Machine-to-Machine)とよばれる、一般通信に比べてトラフィックが少ない事業領域でである。
 「M to Mの領域は、トラフィックが少ないため、通信事業者としては、収益を上げにくい分野だが、ビジネスパートナやMVNOなどと事業連携することにより、トレイルキャッチのようなユニークなビジネスを生み出すことができる」(村田社長)と通信インフラが新たなビジネス創出の宝の山になる可能性を秘めていることを示唆する。

【図1】
図1

【図2】
図2


 従来の日本の携帯電話ビジネスは、垂直統合型ビジネスモデルが主流だ。つまり、キャリア側が、回線はもちろん端末などもすべて自社ブランドで販売し、その端末に提供されるISP事業やコンテンツサービスまで手がける事業形態だ。一方、ウィルコムは、PHS通信網そのものまでも開放し、CSCのようなパートナー企業が独自のビジネスモデルを構築することを認めることで、水平連携型のよりオープンなビジネスモデルの展開を指向している。

【図3】
図3


データセンター機能をパッケージ化して、きめ細かいサポートを提供
CSCエンジン
CSCエンジン
(40mm×60mm)
 CSCのビジネスモデルは、顧客となるパートナー企業の要求仕様に合わせたアプリケーションを組み込んだ通信モジュールを、CSCエンジンとして提供することと、その通信料をパートナー企業から徴収することが基本となっている。CSCエンジンとは、PHS無線通信部や端末制御機能部、I/Oデバイス制御部などを内蔵した、機器組み込み型の通信モジュールである(図4)。UARTインターフェース等に対応することで自販機や表示機などの既存機器との接続やそれ以外のデバイスとの接続が可能だ。このCSCエンジンを組み込んだデバイスをパートナー企業に納入している。
  また、CSCは、CSCエンジンを通じて発信されたビジネス用途向けデータを一括に纏めるCSC通信センターを立ち上げ、「MyAccessサービス」として顧客企業に提供している。「MyAccessサービス」を利用すれば、独自にサーバーや管理システムを運用する必要が無いので、データセンター機能をまるごとCSCにアウトソースした状態でビジネスを立ち上げることができる。

多種多様にわたるCSCエンジンの導入事例
 こうしたビジネスモデルを前提に、CSCは、既に様々なビジネスの立ち上げに関わっている。

■どこ・イルカ:登下校時の学童安全管理・見守りサービス
登下校時の学童の位置をPHS通信網によって5分ごとに検出。保護者はケータイやパソコンで、随時確認できる。

■携帯電話のコイン式有料充電機の売上情報管理とリモートメンテナンス
携帯電話のコイン式充電機の売上情報が自動的にIP網(PHS)経由で送られる。遠隔操作で実際の売り上げ額を把握することができるため、売上金回収のタイミングを計れるので人件費の効率化が可能。

■パレットレンタルのリーシング会社が手掛ける物流管理・追跡サービス
パレットやコンテナなどの貨物を追跡するサービス。PHS発信端末とPHS通信網を通じて貨物の位置情報を10分間隔で取得。運送会社、および荷主や受取人は、インターネット経由で状況を確認できる。

 この他にも、老人介護や自動車の盗難防止などのセキュリティ分野、物流の安全とトレーサビリティの分野ではさらに多様な展開が考えられる他、LED表示機・広告サインボード分野への展望も持っている。CSCエンジンの設定でユーザ側からの遠隔メンテナンスが可能になるので、LED表示機・サインボード上のメッセージをパソコンから自由に更新することが可能になる。
 「全てがシームレスに繋がるユビキタス社会では、生活の周辺に存在する機器をネットワークに接続して“人と機器との情報伝達”を実現することが不可欠」(村田社長)と、今後もM to M (Machine to Machine)の領域をさらに開拓していくと意気込んでいる。

 同事業や関連する機器は、2007年4月に開催される「WILLCOM Forum & EXPO」でも紹介される予定だ。


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